建築家の仕事とは、形をつくることではなく “関係” をつくること

更新日:コラム

建築家の仕事とは、形をつくることではなく “関係” をつくること

― 形の奥にある、見えない設計 ―

建築というと、多くの人はまず「形」を思い浮かべます。
美しい外観、整った間取り、素材の質感やディテール。
けれど私たち建築家が本当に向き合っているのは、形そのものではなく、
形を通じて生まれる“関係”です。

それは、お客様と私たちとの関係であり、
家と土地との関係、光と影、風と時間、
そして家と街との関係でもあります。
それらが見えない糸でつながり、ひとつの“暮らし”を編み上げていく。
私たちの仕事は、その糸を丁寧に紡いでいくことだと思っています。

関係を設計するということ

家を設計するとき、私たちが最初に考えるのは「何を建てるか」ではなく、
「どのように関わりを結ぶか」ということです。

お客様との対話の中で、その方の言葉にならない価値観や、
小さなこだわり、無意識の癖のようなものに耳を澄ませていく。
そうした“関係性の種”が、やがてプランの中で芽を出し、
暮らしの風景へと育っていきます。

土地にもまた、その場所だけが持つ記憶があります。
風の通り道、光の角度、隣家との距離、地面の質感。
その土地の“声”に耳を傾けることで、建築は自然とその場所らしい形を見つけていきます。
私たちが形を決めるのではなく、関係が形を導くのです。

関係が豊かであれば、形は美しくなる

良い建築とは、図面の上の美しさではなく、
関わる人と場所と時間が調和したときに、はじめて立ち上がるものだと感じます。

お客様がその家に帰るたびに、心がほどけるような感覚を覚える。
その空間に差し込む光が、季節とともに少しずつ変化していく。
そんな“関係”が、日々の中で静かに積み重なっていくことこそ、
建築が本来持つ美しさなのだと思います。

建築家の仕事とは、その“関係”をデザインすること。
形はその結果として、静かに、そして必然的に美しく現れる。
私はそう信じています。

BUILD WORKs
河嶋 一志