時を味方にする家づくり
更新日:コラム
― 美しさとは、変わっていくこと ―
建築の仕事をしていると、「いつまでも新しい家でありたい」と言われることがあります。
けれど、私は少し違う考えを持っています。
本当に美しい家とは、時の経過を味方にできる家だと思うのです。
年月を重ねることで、木は少しずつ色を深め、
石は雨に打たれて艶を増し、
床には家族の足跡のような小さな跡が残っていく。
それらは決して「古びる」ことではなく、
人と建築が共に過ごした“時間の記憶”です。
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建築は、完成してからが始まり
図面の上で完成する家は、あくまで“設計上の姿”です。
本当の建築は、住まい手が暮らし始めてから、少しずつ形を変えていく。
季節ごとの光の入り方、風の抜け方、家具の配置や子どもの成長。
その変化を受け止めながら、建物も呼吸を続けます。
だから私たちは、時間の中で育っていく姿を想像しながら設計します。
数年後、十数年後、その家がどんな表情をしているだろうか。
変化を恐れず、時間を味方にできる設計。
それが私たちの目指す家づくりです。
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手仕事と素材が、時間を受け止める
私たちが使う素材は、量産された工業製品ではありません。
無垢の木、左官の壁、真鍮や鉄、天然石など――
20年後も、きちんと直し、手を入れ、メンテナンスができる材料を選んでいます。
それは、時間に負けないものではなく、時間と共に生きていけるもの。
たとえ小さな傷やシミが生まれても、職人の手で直せば、
またそこから新しい表情が宿ります。
私たちは、そうした素材を“手でつくる”ことにこだわります。
人の手が加わった建築は、機械では生み出せない温度を持ち、
年月とともにその温度が深みを増していくのです。
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時を経て、風景になる
街を歩いていて、ふと心を惹かれる建物があります。
それは新しい建物ではなく、
手入れをしながら長く使われてきた家。
そこには、時間の積み重ねが生む“美しさの深度”があります。
家づくりの目的は、完成直後の輝きを競うことではなく、
時間とともに美しくなっていく家をつくること。
そしてやがて、その家が“まちの風景”の一部になっていくこと。
その過程こそが、建築家として最も嬉しい瞬間です。
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BUILD WORKs
河嶋 一志