「夏涼しく、冬暖かい家」。1日の1時間毎の室温をIoT端末で計測してみました

更新日:コラム

「夏涼しく、冬暖かい家」。1日の1時間毎の室温をIoT端末で計測してみました

「夏涼しく、冬暖かい家」が標準。それ本当ですか?

ビルド・ワークスでは、高断熱・高気密住宅が標準仕様です。ですから、手掛ける家はすべて「夏涼しく、冬暖かい家」になります。でも「それって本当?」と思う方も中にはいらっしゃるかと思います。そこで、夏と冬、1日ずつ24時間1時間毎の室温と外気温を3つの邸宅で測定したデータを実際にご紹介したいと思います。

ビルド・ワークスでは、5年ほど前より毎年入れ替えながら3軒程度のご施主様にご協力いただき、IoT端末「Netatmo」による室内の温湿度・外気温のモニタリングを行っています。この端末で得られたデータを、方角や立地条件の違いにより生じる差異、工夫したプランニングと設計時のUA値の設定が適切であったかの検証、採用した空調機器の効き具合の確認、またご施主様が我々の想定した空調機器の使い方をされているかの確認とアドバイスなどに活用しています。今回はこのデータを用いて、3つの邸宅の夏と冬の1日を見ていくことにしましょう。

1時間毎温度計測の概要

室温の測定には5分毎の室温と外気温を自動で測定してサーバーでデータを保管するIoT端末「Netatmo」を、ビルド・ワークスで家を建てたご施主様の邸宅に設置していただくことで計測しました。邸宅により、複数端末を設置し各階の室温を計測していますが、データは主にLDKのあるフロアの室温を見ていきます。集計にあたっては「Netatmo」で計測した5分毎データから毎時データを抽出しています。「Netatmo」の外気温の測定端末は乾電池駆動で、電池切れによりデータが取得できていない期間があるため、外気温のデータは気象庁の地域別24時間1時間毎の気温データにより補完しています。

今回は3つの邸宅のデータを用意しましたが、それぞれに導入している冷暖房機器に違いがあります。また竣工時期の関係で冬のデータが1邸宅のみ別の日のものを採用しました。

・3邸宅の概要と温度測定日(夏・冬各1日毎時室温・外気温データ)

■A様邸(京都府京都市・2F/LDK・床下エアコン)
夏:2021/8/8 冬:2021/1/29

■B様邸(京都府京都市・2F/LDK・輻射冷暖房パネル)
夏:2021/8/8 冬:2021/1/29

■C様邸(滋賀県東近江市・1F/LDK壁掛けルームエアコン)
夏:2021/8/8 冬:2021/12/23

夏は昼間に向けて外気温が上昇するが、室温は一定の範囲に

まずは「夏涼しい」から3邸宅の室温と外気温の毎時の変化を見ていきましょう。

図1 A様邸(京都市・2F/LDK・床下エアコン)の室温と外気温(2021/8/8・24時間毎時データ)
図1 A様邸(京都市・2F/LDK・床下エアコン)の室温と外気温(2021/8/8・24時間毎時データ)

図2 B様邸(京都市・2F/LDK・輻射冷暖房パネル)の室温と外気温(2021/8/8・24時間毎時データ)
図2 B様邸(京都市・2F/LDK・輻射冷暖房パネル)の室温と外気温(2021/8/8・24時間毎時データ)

図3 C様邸(東近江市・1F/LDK・壁掛けルームエアコン)の室温と外気温(2021/8/8・24時間毎時データ)
図3 C様邸(東近江市・1F/LDK・壁掛けルームエアコン)の室温と外気温(2021/8/8・24時間毎時データ)

京都市の2邸宅では0時の外気温は28度と朝まで25度を下回らない熱帯夜、滋賀県のC様邸は0時台で25度の熱帯夜ですが朝に向けて25度を下回る外気温で推移しています。外気温は0時から6時に向けて下がっていき日射が差し込む7時から上昇に転じます。

一方、各邸宅のLDKに設置されたIoT端末で測定された室温は外気温に比べ低く保たれていますが、0時から6時に向けて下がっていき、7時から上昇に転じる傾向は一致しています。外気温が上昇するにつれて室温も影響を受ける、しかし影響は小幅に留まる、というのが1時間毎の室温データの傾向です。

室温と外気温の7時以降の変動は外気温で京都市が15時(37.4度)、東近江市が14時(35.9度)に最大気温を記録するのに対し、室温の上昇は抑えられており、サッシからの日射による輻射熱や、壁伝いの伝導熱で外気温のピークから遅れて室温の上昇が発生しているようです。高まった外気温がゆっくりと室内に伝わり結果として室温の上昇につながっていると考えられます。

室温の変化は3邸宅によって異なります。A様邸では外気温は午前4時の26.8度から午後3時の37.4度まで大きく上昇していますが、LDKの室温は朝5時から7時の26.8度から午後5時、6時の28.6度と小幅の変化に収まっています。

B様邸も外気温は同様に京都市の気象庁のデータで午前4時の26.8度から午後3時の37.4度まで大きく上昇。しかし室温の変動は外気温の変動に比べ小幅です。10時から16時までは27度台で推移し、室温は外気温よりも低く保たれています。B様邸で採用している輻射冷暖房パネルはパネル自体が冷えることで室温低下に寄与しています。

C様邸は滋賀県の東近江市に位置する邸宅ですが少し異なる傾向が見られます。京都市の2邸宅に比べ0時から早朝までの外気温は低めで推移し、6時には23.8度まで下がった外気温が7時から上昇を開始。14時に外気温は当日最高となる35.9度まで上昇しています。

一方、1F/LDKの室温は0時から21時までを通じて室温は29度~29.4度で安定していますが、22時には30度、23時には29.9度と上昇。21時から23時の室温は外気温よりも高くなっていました。C様邸では夏はあまり積極的にエアコンを活用していないのかもしれません。

このあたりは住まう人の体感に合わせて適切に冷房器具を活用し快適な温度を保つとよいでしょう。家本体は外気温の上昇に対して室温の上昇を一定で抑える効果を発揮しています。エアコンを温度設定して活用することで、より快適な温度に保つことができると思います。

冬の保温効果はしっかりと現れた

それでは今度は冬の寒い日の室温と外気温のデータを3邸宅で見ていきましょう。こちらのデータはA様邸、B様邸は2021/1/29のデータ、この時期にまだ竣工していなかったC様邸は2021/12/23のデータを測定しました。

図4 A様邸(京都市・2F/LDK・床下エアコン)の室温と外気温(2021/1/29・24時間毎時データ)
図4 A様邸(京都市・2F/LDK・床下エアコン)の室温と外気温(2021/1/29・24時間毎時データ)

図5 B様邸(京都市・2F/LDK・輻射冷暖房パネル)の室温と外気温(2021/1/29・24時間毎時データ)
図5 B様邸(京都市・2F/LDK・輻射冷暖房パネル)の室温と外気温(2021/1/29・24時間毎時データ)

図6 C様邸(東近江市・1F/LDK・壁掛けルームエアコン)の室温と外気温(2021/12/23・24時間毎時データ)
図6 C様邸(東近江市・1F/LDK・壁掛けルームエアコン)の室温と外気温(2021/12/23・24時間毎時データ)

冬の室温はA様邸が非常に安定しています。外気温は1日を通じて2度台から8度台で推移していますが、室温は20時から23時に19.8度と20度をやや下回っているものの、1日を通じて20度を上回る室温を維持しています。この温度であれば重ね着をするといった工夫で1日快適に暮らせるのではないでしょうか。

B様邸も同様に19度台と20度台で推移、外気温が5度から7度台で推移している9時から17時までの時間帯は20度を上回る室温で推移しておりこちらも快適に過ごせる室温が維持できているようです。ここでもB様邸の輻射冷暖房パネルが冬は熱を発することで室温を保つためにうまく機能しているようです。

C様邸は東近江市でデータは2021/12/23のものになります。0時の外気温は4度で徐々に低下していきますが、0時の室温は23.4度と高めの温度となっており、暖房を活用しているようです。朝の外気温の冷え込みに合わせて室温も若干の低下が見られますが小幅にとどまっています。

外気温の低下は6時に-0.2度、7時には-0.7度と氷点下を記録。この時間帯の室温はそれぞれ19.9度、19.5度を維持しており、室温はしっかりと保たれています。

外気温は8時から上昇し13時から15時は10度台で推移、16時から23時に向けて再び1度台まで低下しています。この間室温は18度台から17度台で推移し、21時から23時には20度台に上がっていることから、この時間帯に暖房が使われたと考えられます。

3邸宅ともに、外気温に対して室温は常時一定の温度が維持されており、高断熱+高気密で部屋自体の温度を保ち、適切に暖房を活用することで快適な室内環境を実現する狙いは効果を発揮していると考えられます。

「夏涼しく、冬暖かい家」には冷暖房機器の活用も大事

ここまで暑い夏の1日と寒い冬の1日を3つの邸宅でどのような温度変化が起こるのかを見てきました。3邸宅とも適切に温度が維持され、「夏涼しく、冬暖かい家」として機能しているのがおわかりかと思います。

しかし、人によっては「夏の室温はもっと低くないと過ごしにくい」、「冬でももっと暖かくして過ごしたい」と考えられる方もおられるかもしれません。そうした方には、ぜひ冷暖房機器を積極的に活用することでより快適な室温の家でお過ごしいただきたいと思います。高断熱+高気密の家は、こうした夏の冷房や冬の暖房において、外気温の影響を受けにくい特性から、冷暖房効率が高く光熱費の節約につながる点もメリットになります。住宅本体の性能がなければ、どれほど冷暖房機器を活用しても「夏涼しく、冬暖かい家」にはなりにくいことはぜひ覚えておいていただきたいポイントです。

B様邸はパネルシェードを各階に設置しているため割とどの部屋も快適に過ごしていただけるのですが、どうしても暖かい空気は上に上がり、上階ほど暖かくなります。3階と1階とを比べると温度差が出るため、冬場のお天気の良い日は3階は止めてしまうなど、細かい温度設定などを行うといったより快適に暮らしていただけるアドバイスを行いました。

C様邸は、1階、2階と個別のルームエアコンなのですが、なるべく夏は2階、冬は1階のエアコンを消さずに運転していただくことをお伝えしていたのですが、どうしても従来のような使い方になってしまうことが多く、1、2階の温度差が大きくなる日が出ていました。

ただ、ビルド・ワークスでお家を建てられた方から実際にモニタリングさせていただいたデータに基づいてお話を伺うと、「夏思ったよりも涼しい」、「冬思ったよりも暖かい」からと冷暖房を切ったままですごされているケースがいくつかありました。住まわれている方の感覚というのは、データからは読み取れないこともある、ということのようです。

なお、ビルド・ワークスの建てる家の性能について、もっと詳しくお知りになりたい方は「6つのコントロール」もあわせてお読みください。

データを設計ノウハウとして活かしていく

ビルド・ワークスでは、こうした夏冬の邸宅の温度変化を日照シミュレーションなどに基づいて想定した上で設計を行っています。こうした設計上の想定が実際に建てられた家でどのように変化したかを把握し、今後の設計に活かしていくことも重要だと考えています。

今回取り上げた邸宅の中ではA様邸の夏の室温でシミュレーションと若干乖離がありました。A様邸は軒で日差しの調整のしやすい南だけでなく、一部中庭テラスに向けた西向きの大きな窓も設置しています。想定ではこの字型の中庭の西向き窓のため、西日の影響は大きくないというシミュレーションから、通常のエアコンよりも優しい涼しさとなるパッシブ冷暖の夏の冷房でも問題ないと考えていました。しかし、この夏の西日の影響は予想以上に大きく、夏場は想定冷房温度よりも少し下げないと室温が高めになってしまう日がしばしば生じました。

今後、同様の邸宅の設計においてはこうしたデータを参照してより設計を詰めていかなければ、と考えています。

BUILD WORKs
設計士 / 河嶋