家づくりは、打合せの時間で決まる

更新日:コラム

家づくりは、打合せの時間で決まる

― 図面の前に、言葉を交わす ―

家づくりにおいて、最も大切な時間はどこにあるのか。
そう問われれば、私は迷わずこう答えます。
それは、図面を描く前の「打合せの時間」だと。

間取りや仕様が決まる前、
まだ家の輪郭が何も定まっていない、あの曖昧な時間。
その時間こそが、家づくりのすべての質を決めていくと、私は考えています。

言葉にならない想いを探す

打合せの初期段階で、お客様から伺うのは、
「広いリビングがほしい」「収納を多くしたい」といった、分かりやすいご要望です。

けれど本当に設計に影響を与えるのは、
その奥にある “なぜそうしたいのか” という理由です。

家族とどんな時間を過ごしたいのか。
どんな朝を迎え、どんな夜を過ごしたいのか。
言葉になりきらない想いを、会話の中から少しずつすくい取っていく。

その作業は、設計というよりも、対話そのものだと感じています。

図面は、対話の翻訳である

私たちが描く図面は、単なる設計資料ではありません。
それは、お客様との対話を「空間の言葉」に翻訳したものです。

何度も話し合う中で、
ご家族の価値観、距離感、暮らしのリズムが、
少しずつ輪郭をもって立ち上がってくる。

図面は、それらを線と寸法に置き換えたものにすぎません。
だからこそ、打合せの密度が低ければ、
どれほど美しい線を描いても、空間はどこか他人行儀なものになります。

「伝える」ではなく、「共有する」

私たちは、家づくりにおいて
「お客様に説明する」「提案を通す」という姿勢では臨みません。

大切にしているのは、感覚を共有することです。
この光は気持ちがいいか。
この天井の高さは、落ち着くか。
この距離感は、近すぎないか。

そうした感覚を、図面や模型、言葉や沈黙を通して、
何度も何度もすり合わせていきます。

その繰り返しが、
「なんとなくいい家」ではなく、
「この家でなければならない理由のある家」をつくっていきます。

いい家は、いい会話から生まれる

家は、建てた瞬間ではなく、
暮らし始めたその日から、本当の意味で完成に向かっていきます。

だから私たち設計者は、
その最初の起点となる「打合せの時間」を、何よりも大切にしたい。

図面よりも先に、
仕様よりも先に、
まずは、言葉を交わすこと。

いい家は、いい会話から生まれる。
私はそう信じて、今日もお客様と打合せを行なっています。

BUILD WORKs
河嶋 一志